メインコンテンツへスキップする

公開日 2026年5月13日

国立ジーンバンク(遺伝子銀行):未来の生物多様性の守り手

人類の未来は、地球上に生きる種の多様性にかかっている。それらは現在、そして将来の世代に、食料源と健全な環境をもたらしてくれるからである。スイスでは、農業研究の中核的研究機関であるアグロスコープが管理する国立ジーンバンク(遺伝子銀行)に、多くの植物品種が保存されている。

実験室で、金属製格子上に整然と並べられた、緑色の若い植物が入った透明なプラスチック容器。

スイスおよび世界中の生態系は、集約的農業、気候変動、環境汚染などの要因により悪化しており、生物多様性が危機にさらされている。この傾向に対抗するには、遺伝資源の保全が不可欠である。植物の農業生物多様性を維持するには、さまざまな技術を用いることができる。多くの野生植物や作物の種は圃場(農作物を育てる畑)を基盤とした収集施設で維持される一方で、その他の植物は実験室内で、または種子として保存されている。ヴォー州 にある、アグロスコープのシャンジャン拠点には、遺伝資源の二つの保管施設がある。穀物、野菜、芳香植物の種子は種子銀行(シードバンク)に保存され、果樹、ジャガイモ、ブドウのサンプルは試験管内クリーン保存株維持施設に保管されている。

乾燥した小麦の束、ラベル付きのアルミ箔袋、種子や豆類が入った紙袋。

一つのライブラリー、数千の資源

アグロスコープ職員であるシリル・シュネーヴランが種子銀行の扉を開けると、摂氏4°Cに保たれた低温室の棚に、何十もの箱が並んでいるのが見える。彼は箱を一つ選び、「Avondefiance」とラベルの付いた小さな紙袋を取り出す。その中に入っているのはレタスの種子の標本である。これは、この施設に保存されている穀物、野菜、その他の作物植物の13,000点のアクセッション、すなわち特定の場所と時期に収集された標本の一つである。「ここにあるのは、棚から取り出され、植えられるのを待っている、生きた種子のライブラリーです」とシリルは説明する。これらの生きたアーカイブは100年以上の歴史を持ち、20世紀初頭に収集された品種も今なお含まれている。種子銀行はさまざまな目的で利用されている。研究者は、より丈夫で病気に強い作物を得ることを期待して、そこに保存されている古い植物品種をもとに交配を行うことがある。また、種子銀行のサンプルは、スイスの植物園での展示や、地元の古い農作物品種を探す農業従事者にも利用されている。

白い背景の上に、2本の穀物の穂と、色の異なる2つの穀物の粒の山が置かれている。

種子銀行の見学は、建物の地下へと続く。種子を長期間保存するため、シリルと同僚たちは、それらを巨大な冷凍庫で摂氏マイナス20°Cの温度下に保管している。冷凍庫に入れる前に、標本は数日間にわたって乾燥させられ、その後アルミ袋に真空包装される。この方法により、一部の穀物は発芽能力を失うことなく最長50年間保存することができる。毎年、選ばれた品種が播種され、そこから得られた種子が収穫される、これらの新しい種子は、その後数十年に向けて、施設の穀物・野菜種子コレクションを補充するために用いられる。種子銀行には、珍しいものが溢れている。例えば、19世紀末に「奇跡の小麦」として知られるようになった小麦の品種は、その豊かな小穂によって高収量をもたらすと人々が信じたものである。その他の貴重な品種には、人類が栽培してきた最古の穀物の一つであるヤギムギや、ライン渓谷で何世代にもわたって栽培されてきたトウモロコシ品種リベルマイス (Ribelmais)などがある。

畝のある畑を上空から見た様子。帽子をかぶった3人が作物の間に立っている。

試験管の中の世界

試験管内クリーン保存株維持施設は、低温室とは印象的な対照をなしている。種子銀行の棚には種子の入った箱が並んでいたのに対し、この施設の棚には、澄んだ光を浴びた何百本もの試験管が並び、その貴重な中身を映し出している。 それは、基材となるゲルに根を張った小さな植物である。実験室で育つこれらの「盆栽」のような植物には、レモン、クレメンタイン、イチゴ、ラズベリー、レモンバーム、オレガノなどがある。ここに保存されている400点の植物アクセッションは、農業分野にとって貴重な備えであり、悪天候や病害によって植物資源が失われた場合に、それらを復元するために活用される可能性を。

透明な液体の入ったガラス試験管の中に緑色の葉が置かれ、背景は紫色にぼかされている。

「植物は試験管内では季節の影響を受けにくいため、より速く増殖します」と研究者のエリック・ドローは語る。彼が例として挙げるのはジャガイモで、実験室では土壌中より最大100倍速く増殖できるという。試験管内の植物が一定の大きさに達すると、小さな切片に分けられ、それぞれの切片には芽が含まれる。その切片がさらに別の試験管に入れられる。この根気のいる作業は、完全に無菌の環境で行われる。試験管内での培養は、短期間で植物材料を生産することで研究チームの作業を大幅に容易にするだけでなく、将来的にスイスで販売できる可能性のある外来種の栽培にも道を開く。

若い緑色の植物が入ったガラス試験管が金属ラックに並び、白いタグが取り付けられている。

国境を越えて

アグロスコープのジーンバンクと地域組織との緊密な協力は、植物の農業生物多様性を保全するうえで不可欠であるが、国際的なパートナーシップも重要な役割を果たしている。スイスと他の150カ国は、「食料及び農業のための植物遺伝資源に関する世界行動計画」を採択し、世界の作物植物保全に協力して取り組む意思を示した。この取り組みは、ノルウェーの永久凍土内にスヴァールバル世界種子貯蔵庫が建設されるきっかけとなった。この施設は「植物のノアの方舟」とも呼ばれ、世界各地のジーンバンクから送られるサンプルが収蔵されている極めて安全な地下壕(バンカー)であり、各国のジーンバンクは保存のために種子の複製を定期的に同施設へ送っている。アグロスコープのジーンバンクは、スイスの植物遺伝資源を守るため、すでに10,422点の種子アクセッションをスヴァールバルに寄託している。

雪に一部埋もれた三角形のコンクリート建造物。装飾パネルと金属製の通路が見える。

しかし、エリック・ドローが指摘するように、「遺伝資源を保存しても、それを識別できなければ意味がない」のである。したがって、保存サンプルの識別は、植物農業生物多様性の保全に関する国際協力の主要な重点分野となっている。その作業には、エリックと欧州のパートナーたちによる本格的な探偵のような作業が必要である。「私たちが用いる分析方法は、犯罪検査や親子関係の検査にも使われています。さまざまなデータを他の研究所が保有するデータと比較することが含まれます」と彼は説明する。植物サンプルの遺伝的特性(プロファイル)を明らかにしようとする科学者は、分子標識(分子マーカー)と呼ばれるデオキシリボ核酸(DNA)の断片を調べる。これは2つの植物の類似性の度合いを特定する。これにより、誤った名前で記録された標本を特定できるだけでなく、異なる名前を持つ品種間の類似性も明らかになる。例えば、スイスで「Blaue Österreich」として知られるジャガイモ品種は、フランスでは「Bleue d’Auvergne」、スウェーデンでは「Karjalan Musta」、ドイツでは「Skerry Blue」と呼ばれていることが判明している。